今月の小黒さんコラム「Flower Cafe」で取り上げている、リュウキュウアセビが咲き始めました。詳しい解説はコラムを見て頂くとして、コラム内で名前の出ていたリュウキュウアセビやアマミアセビ、ヤクシマアセビなど南方に分布しているアセビのことを紹介したいと思います。
アセビの樹は庭木としても人気で、本州から九州まで低山で普通に見ることの出来る花木です。奈良公園ではシカが食べないために群落を作っているほど。有毒植物なので動物の食害に遭わないというのも、公園樹としてよく利用される理由です。
分布からも分かるとおり、アセビは本来高冷地に向いた樹木で元から耐寒性の高いものです。ではどうしてリュウキュウ(沖縄)、アマミ(奄美大島)、ヤクシマ(屋久島)といった南方域に別種が存在しているのかというと、これが「残存植物」といわれるものだからです。
かつて地球には氷河期という地球規模で極低温の期間がありました。数百万、数千万年単位で続くとされる氷河期は、比較的温暖な気候となる間氷期と、氷に覆われる氷期を10万年単位で繰り返していたといわれています。一番最近の間氷期には沖縄やさらにその南でも、本州中部くらいの気温になっていた時期があり、アセビは奄美大島まで分布を広げていたと考えられています。
その後氷河期が終わり、現代になると気温が上昇していき南方に進出していたアセビのほとんどは暑さで枯れてしまいました。標高の高い所に生えていたわずかな群落が生き残って、隔離された環境で独自の変化を遂げたものが、リュウキュウアセビやアマミアセビ、ヤクシマアセビなどです。
事実としてアマミアセビもヤクシマアセビも標高1000mを越える場所にしか自生はなく、残念ながらアマミアセビは野生では絶滅種とされています。リュウキュウアセビはより低い標高でも生えていますが、川沿いなど冷涼な気候の場所だけにあるそうです。
氷河期時代の残存植物といわれるものは、アセビ以外にもいろいろあります。興味のある方は調べてみてはいかがでしょう。